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生命を漲らせる夏が終わり落ち葉の絨毯も消えたある日、雪が降った。

「どうりで冷えるわけだ」
窓の外でちらつき始めた白さに彼が呟く。来客として訪れていた自分も彼に倣って窓を振り返った。今年になって初めて見る雪に心が弾む。自宅に帰る道のりさえ楽しみだ。
「積もるといいなぁ」
「冬は走りにくいのが問題だ」
憮然とした態度を取ってみせるも、それが単なる作り物であることは知っていた。椅子から立ち上がり窓際へと近寄る。外の冷気がガラス越しにでも伝わってき た。僅かな曇りを指で擦ると、既に大地は白いヴェールを纏い出している。明日まで待つまでもなく新雪を歩けるかもしれない。
室内の暖気を逃がさないようにカーテンを引こうかと思ったところで、窓枠に小さな植木鉢が一つ置かれていることに気がついた。中には土しか詰まっていない。首を傾げつつ持ち上げて彼に尋ねる。
「これ、何だ?」
「夏の名残。今は冬眠中」
彼が椅子に座ったまま、マグカップ片手に返答する。冬眠というからには何かの種を植えているのだろう。冬には彩る草木は雪へと覆われてしまう。花が好きだと言う彼のことだからこの季節は退屈かも知れないと思ったのだが、尋ねてみると意外にも首を振った。
「冬は眠りの季節だからな」
「?」
「この寒さが春の芽吹きを守ってる」
冬に守られ耐え忍んでこそ、輝くような春の芽吹きは訪れる。何人たりとも春の眠りを妨げることは許されない。だから冬は荘厳で静謐なんだぜと彼が笑った。
「ま、冬に咲く花もあるんだけどな」
「それで何を植えたんだ?」
「楽しみは先にとっておくものだぜ」
不満げな視線を送ると、そ知らぬ顔でコーヒーを啜る。どうやら教える気はなさそうだと判断して植木鉢を置いた。再び椅子へと腰掛けると、入れ替わるように彼が立ち上がる。何かを思い出したらしく、暫く待っていろと言い残して隣の部屋へと消えた。
一人二杯目のコーヒーを飲んでいると、白い封筒を携えて戻って来る。
「やるよ」
差し出されたので手を伸ばして受け取る。手触りから中身が手紙でないことだけは分かった。封はされていなかったので開いて中を覗いてみる。小指の先程の黒い塊がいくつか見えた。
「種?」
「秘密のお裾分け。春までちゃんと待てよ」
封筒を指差して彼が忠告する。雪が溶ける頃には謎も解けるということらしい。きちんと鉢に植えてやれば春には正答が芽を出すだろう。

花が咲いたら見せに来るよと告げ、そっと封をする。
ちゃんと咲かせられるか楽しみだぜと、彼が皮肉な口調で微笑んだ。





2008.12.14
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