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熱かった。灼熱の煉獄に焼かれているかのようで、
流れ出す汗が仮面の下を伝っては僅かな冷えを生み出したかと思えばそれを上回る熱が噴出してくる。
辺りを見回せばむき出しの岩山ばかりだった。無理もない。火山の直ぐ近くの集落なのだ。
火口があるであろう方向を見回せば、紅に染まった空ともうもうと立ち込める黒い煙がその存在を誇示している。
黄泉からの怪物達は人の負の感情を具現化したものなのだと誰かがそう言っていた。
不安定になったこちらとあちらの世界の境界が更に向こう側の無念や憎悪の念を増幅してその出現率は止まることを知らない。
既に呼ばれた回数も、馬で駆けた場所も両の手の指では足らなくなっていた。
それほどに民草の不安とこれまでの争いで大地が吸い上げた紅の液体の量は記憶と歴史の量だけでも膨大だ。
「どうした、パーシヴァル卿とあろう方が怖気づいたか?」
冷ややかさすら覚える声が背後から掛けられた。
振り返れば同じく鋼鉄で作られた仮面を目深に被った騎士が僅かに口元を歪ませて立っていた。
自分が持つ細身のレイピアとは違い、大降りの大剣とも言えそうな程の片刃の剣を逆手で軽々と持ち上げている。
その細い肢体のどこにそんな力があるのだろうかと毎回会う度に疑問に思うものだ。
円卓の騎士の中でも最強と謳われるその剣舞の腕前は誰もが認める程。
以前御前試合を拝見させて貰ったときはその鮮やかさに誰もが見惚れた。
それほどにこの目の前の男の勇姿は国全土に広まり知らないものなど誰一人いないという有様なのだ。
しかし、その男の冷たい仮面の内側に隠れているものを知る者は殆ど居ない。
「誰が怖気づいただと?そういう貴公こそこんな辺境までなんの用だ?此処は私の管轄の筈だが」
「近くまで来たので寄らせて貰った。苦戦はしていないようだな」
「そろそろ現れる刻限なのでな。暫くすれば此処は戦場だ。貴公も混じらぬか?」
「…フン、いいだろう」
仮面に隠れた紅玉の瞳が、キラリと燃え盛らんばかりの炎を灯した。
冷静でいて好戦的なこの男が、闘いの喇叭の音が高らかに鳴るその瞬間を待ちわびている。
血に酔っているのは私も、彼も同じだ。
ぞわりと周囲の暗闇が溶けて広がっていく。
グプグプと怖気の立ちそうなほどの気味の悪い音を立ててこの世のものだとは想像もつかないようなグロデスクな異形の生き物をモチーフにした生命が生み出されては咆哮を上げている。
彼の、自分の鋼が冷えた光を生み出した。心に灼熱が灯る。独特の高揚感。
彼と同じ笑みを浮かべているのだろう。私も。
冷えている筈の甲冑が触れ合った瞬間。焼き尽くされそうなほどの熱だけが走った。