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ママの作るケーキは世界でいちばんなんデスよ。

無邪気に笑みを浮かべるその少女の表情が、遥か彼方の記憶へとリンクする。
おぼつかない手で一生懸命に生クリームの入ったボウルを支えては手にしている泡だて器をくるくると回して液体状になっているそれに空気を混ぜる作業を続けている。
広いキッチンの机の上に広げられた小麦粉、篩い、量り、卵、砂糖、瑞々しい苺は蔕の部分を綺麗に切り取ってそのままとスライスにした状態のものに分けられていた。
甘い香りが広がっている。鼻腔をくすぐるその香りは無意識に口元を緩ませた。
自分だけでは支えきれない重さになっているそれを押さえつけようと躍起になっているが、それ以上は無理なのかほんの少しずつ手前へとズレを生み出していっていた。
思わず手を伸ばして淵を支える。ハシバミ色の瞳が大きく見開かれ、驚きが隠せない様子だったがそれも束の間、花開くように大輪の笑顔が少女に浮かべられた。
邪魔をしなかったことに安堵の息が漏れる。手伝わせてくれないかという申し出は是も非もなく受け入れられた。
 
腕全体ではなく手首のスナップを生かして泡だて器を回す作業を続ける。
ボウルの下には濡れた布巾を敷いた。これで滑ることもそうないだろう。
暫くすれば慣れ親しんでいた腕のだるさが遣ってくる。
少女の細腕には辛い作業である筈なのに、弱音の一つも零さずに心底楽しそうな笑みを浮かべていた。 そんなところまで、彼女とそっくりで。
篩いに掛けた小麦粉が深さを伴ったボウルの中へとさらさらと音を立てながら降り積もっていく。それはまるで粉雪のようだと感想を漏らした。
隣には溶けた卵とバターの混合物。砂糖を混ぜれば黄色が白身を帯びて淡い色へと変化する様をキラキラとした瞳で少女は眺めていた。



チン、という軽い音。既にフルーツと生クリームの準備は万全だ。
デコレーションはどうしようか。美しく飾られたそれは得意分野だが、それよりも少女のやりたいようにやってみたらどうだろうか。不恰好でも少女の母親は嬉しそうな笑みを浮かべるだろう。プロフェッサーがそれを見たときのように。






褪せたセピア色と現在の鮮やかさが
    眩しいくらいに折り重なって柔らかな光を灯している。


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熱かった。灼熱の煉獄に焼かれているかのようで、
流れ出す汗が仮面の下を伝っては僅かな冷えを生み出したかと思えばそれを上回る熱が噴出してくる。
辺りを見回せばむき出しの岩山ばかりだった。無理もない。火山の直ぐ近くの集落なのだ。
火口があるであろう方向を見回せば、紅に染まった空ともうもうと立ち込める黒い煙がその存在を誇示している。
黄泉からの怪物達は人の負の感情を具現化したものなのだと誰かがそう言っていた。
不安定になったこちらとあちらの世界の境界が更に向こう側の無念や憎悪の念を増幅してその出現率は止まることを知らない。
既に呼ばれた回数も、馬で駆けた場所も両の手の指では足らなくなっていた。
それほどに民草の不安とこれまでの争いで大地が吸い上げた紅の液体の量は記憶と歴史の量だけでも膨大だ。

「どうした、パーシヴァル卿とあろう方が怖気づいたか?」

冷ややかさすら覚える声が背後から掛けられた。
振り返れば同じく鋼鉄で作られた仮面を目深に被った騎士が僅かに口元を歪ませて立っていた。
自分が持つ細身のレイピアとは違い、大降りの大剣とも言えそうな程の片刃の剣を逆手で軽々と持ち上げている。
その細い肢体のどこにそんな力があるのだろうかと毎回会う度に疑問に思うものだ。
円卓の騎士の中でも最強と謳われるその剣舞の腕前は誰もが認める程。
以前御前試合を拝見させて貰ったときはその鮮やかさに誰もが見惚れた。
それほどにこの目の前の男の勇姿は国全土に広まり知らないものなど誰一人いないという有様なのだ。



しかし、その男の冷たい仮面の内側に隠れているものを知る者は殆ど居ない。



「誰が怖気づいただと?そういう貴公こそこんな辺境までなんの用だ?此処は私の管轄の筈だが」
「近くまで来たので寄らせて貰った。苦戦はしていないようだな」
「そろそろ現れる刻限なのでな。暫くすれば此処は戦場だ。貴公も混じらぬか?」
「…フン、いいだろう」

仮面に隠れた紅玉の瞳が、キラリと燃え盛らんばかりの炎を灯した。
冷静でいて好戦的なこの男が、闘いの喇叭の音が高らかに鳴るその瞬間を待ちわびている。

血に酔っているのは私も、彼も同じだ。

ぞわりと周囲の暗闇が溶けて広がっていく。
グプグプと怖気の立ちそうなほどの気味の悪い音を立ててこの世のものだとは想像もつかないようなグロデスクな異形の生き物をモチーフにした生命が生み出されては咆哮を上げている。
彼の、自分の鋼が冷えた光を生み出した。心に灼熱が灯る。独特の高揚感。

彼と同じ笑みを浮かべているのだろう。私も。

冷えている筈の甲冑が触れ合った瞬間。焼き尽くされそうなほどの熱だけが走った。



 

なぁ、アンタの力って、どうなってるんだろうな?
君がそんなことを言うものだから。


チャリ、と鳴るのは見慣れた金の腕輪。
しかしそれは今は己の手首にはなかった。

「っ……うぅ…」

少し苦しげな呻き声が室内に響いている。
その声の主を金紅の瞳が冷ややかに眺めた。
部屋の床に転がる、白とも薄金とも形容できる姿。
金色の瞳が潤んでは浅い呼吸で腕を宙へと伸ばしている。

「…どうだ?リミッターの付け心地は?」

制限される力はとてつもない負荷になり白の体を苛んでいるようだった。
対抗するように宝石の力を引き出して力を増幅させても、まだ有り余るその力。
薄金の肢体がもがいては何とかして負荷を跳ね除けようとする。
それも暫し続いたと思ったらくたりと動きが止まってしまった。

「…情けない。これしきでもう音を上げるのか?」

ニヤリ。と口端に笑みが零れるのを自覚していた。
悔しげに向けられるその瞳に、愉悦の心が抑えきれない。

「アン、タ…」
「その負荷をつけて尚、君が僕に何か出来るのか?」

リミッターを外していることで、力の制御が利かない。
凶暴な感情が、泡のように湧き上がってはパチン、と弾けていった。



白の持つ腕輪を、己の手首に填め込む。
少々の重さと、慣れた力への制御。
それでも自分のものには到底及ばない。




さあ…どれだけその力に抗っていられるのか。
もう暫し愉しませて貰おうか。
ねぇ、燃え上がるほどの恋をしたことある?

恋に恋する乙女は、おもむろにそう呟いた。
相手といえば、答えを窮するかのように、その人のよさそうな顔を困り顔へと変えている。

寧ろ、恋などしている暇など、持ち合わせていなかった。


ふと、どこか優しげな笑みを浮かべた女性の面影が、脳裏に浮かぶ。
名前も、顔すらまともに覚えては居ないのだけど。
妙に目の前に座る、元気いっぱいに瞳を輝かせる少女に重なった。

彼女はこんなに無邪気ではなかったし、
もっと大人しく、形容するなら湖に一輪立つ、白百合のような人だったけれど。










忘れようとしていたのか、はたまた思い出そうとしなかったのか。
頬にポタリと、熱い雫が流れていった。







「……あら、どうしたの?」

透き通るほどの、美しい空を映した瞳が、翠緑色の光を捉える。
深海色の体躯は、夜空色へと染まっていった。



ド レ ミ
C D E

音階どうりに 綺麗に歌え。



少女の指が、白鍵と黒鍵を、滑るように紡いでいく。
ハノン、ツェルニー、ショパン。
時折、咽たように渇いた咳が、場を濁した。

「あなたは、何に怒っているの?」

鈴のような声が、凛と響いた。
ピクリと、夜空色の体躯が反抗するように微かに動く。


あの影の 大切な 大切な 聖母。
彼女を壊したら、あいつはどんな顔をするだろう?


暗い悦びが満たしていく中、涼やかな少女の声が、脳に響いた。



さぁ、唄ってくれないか。
その、お綺麗な声で。
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