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どこかで見た事のある様な、無い様な。久し振りの海釣りで掛っ
た獲物はとにかく――不思議だった。
体長は優に三メートルを超えているだろうか、やたらと飛び出し
た鋭い牙が恐ろしい。
頭から尾びれまで、透き通るようなブルーだが、目を見張るのは
、二股に分かれている緑色の尾びれ。――不思議だった。
青空に舞うカモメ達も、相棒のカエル君も目を丸くしている。こ
れは本当に――不思議だった。
鱗が一部剥がれていた。徐にその中を覗き込んで見た。
赤い血が出ているが、その体内は定期的にチカチカと信号の様に
点滅している。――不思議だった。
これは、どうにも分からない事だらけだった。そもそも魚なのだ
ろうか?。鰭もよく見ると両生類の足の様にしっかりしていた。
そして骨だと思っていた物は、爪と言った方がいいのかもしれな
かった。
バスケットボールぐらいの大きな目玉がこっちを凝視している。
目の奥は小さなガラス玉がビッシリと敷き詰められている様だっ
た。これは奇麗だ。
しかし、その一粒一粒がそれぞれ不規則に動いている。魚の目と
言うよりは、蠅の目の様だ。――不思議だった。
「ビッグぅ! 魚釣れたの? え……」
バーベキューの準備をしていたエミーがやってきたが、凄まじい
悲鳴を上げて引っ繰り返った。カエル君も潰されないように飛び上
がる。――やはりこれは、とんでもない物なのだろうか?。
エミーを起こしてあげた。エミーの手は恐がっているのか、強く
握り締められ、簡単には、離してくれなさそうだった。
皆の所に持っていけば、何かわかるだろうか?。何かわかれば、
おいしく食べられるかもしれない。そうだ、持って行こう。
でも。
「………何だろうぉ?」
ちょこっとグロはいりますちゅーい。
風を切って走る、その先に青く光るもの。
「HA! お前がイチバン速いだって?聞いて呆れるな!」
ギアの後方に白い煙が追いかける。contrail、飛行機雲ってヤツだ。
オレはその雲に乗り上げ、自分のギアに押し当てる。グラインドレールで滑走するよりも不安定だが、こんな空気の薄い上層の街で繰り広げられるチェイスでは、この方が有効だ、ってこともある。
ふと、雲が途切れる。また風が変わる。
アイツは気流の乱れなどお構いなしに、クルクル回転しながら高い塔と塔の隙間を縫ってゆく。さらにスピードをあげて、逃げてゆく。
つま先を軽く流して、コースを変更。一気に30メートル程落下して、連続トリックをキメる。
地上なんかどこにも見えない。
この狂った重力の世界で、ゴールはあの光る青。
タービュランスを捕まえた。
さあ、こっから先はオレが風になるぜ!
手を伸ばす必要なんかない。
吹き飛んでゆく視界の真下、アイツがオレの存在に気付いた瞬間が狙い目だ。
アイツのプライドごと踏み潰してやるぜ!
「だから、逃がさねぇって言ってんだろ!」
「潜り込んだ…」
「了解だ、エスピオ。電源を落とすまで五分だ」
無線のノイズ越しにベクターの声は喧しい位に響く。音量を少し
下げた。
やはり今回の仕事は気が進まないな、GUNの施設に侵入するな
ど、探偵の領分を越えている。
しかも、相手が相手だからだ。最近のベクターは分別が無さ過ぎ
る。事務所の運営に金が掛るのは分かるが――ドクターエッグマン
を脱獄させるなど。
「本当にやるのか? ベクター」排気口から向かって来る、の生暖
かい空気が不愉快だ。
「仕方ねぇだろエスピオ、今回の仕事はエッグマンのオッサンがい
ねぇと始まらねぇんだ。大体お前がシャドウに先を越されたから」
「言うな、分ってる」
犯罪紛いの行為はそもそもは私のせいだとと言うのか?。げんな
りさせられる。
確かにシャドウの妨害、否、シャドウの行いが正当だろうが。ま
さか、このタイミングGUNが動くとは予想外だった。間が悪いと
ぼやきも出て来る。
排気口の出口からエッグマンが居るとされる、独房まで、約二十
分、ここだ。
巻き込まれれば、ひとたまりも無いファンのすれすれまで近づい
て、配線を切断し、布で回転を止める。近代建築は意外に容易い。
電源が落とされるまで、あと二分。ファンを外し、排気口から出
ると、そこは独房どころか、長く一通の通路だった。
「ベクターまだか? 以外に見張りが多いぞ…」
「急かすな もう少しだ…あと一分で」
「人が来る、静かに…」
無計画な侵入作戦では無理もないか。おそらく見取り図の見間違
いだ。先ずは姿を消そう。
低くかがみ、壁の灰色に身体を合わせる。これは難儀な色だ。
GUNの兵士か。腰のホルスターには、拳銃がしっかり治まって
いる。厳しいかもしれないな。
選択肢は二つだ。怪しませながらも、動き回って電源が消えるの
を待つか?。それとも状況に合わせ、本職の手順に準ずるか?。
後者を選んだ場合はベクターとは別行動になる。チームワークが
モットーのベクターが嫌う。しかし、――もう潮時だな。
兵士の正面まで接近し、溝に一撃、そして首に一撃。倒れる身体
を支え、静かに寝かせる。
「ベクター、無線を切るぞ…」
「何言ってやがるんだ? 電源なら…」
「それでは間に合わぬ、拙者の合図で電源を落とせるように、準備
していてくれ…ここからは拙者のやり方で、やらせてもらう…」
「おっおい、待てエスピ…」
認めたくも無いが、忍びの血が騒いでいた
熱かった。灼熱の煉獄に焼かれているかのようで、
流れ出す汗が仮面の下を伝っては僅かな冷えを生み出したかと思えばそれを上回る熱が噴出してくる。
辺りを見回せばむき出しの岩山ばかりだった。無理もない。火山の直ぐ近くの集落なのだ。
火口があるであろう方向を見回せば、紅に染まった空ともうもうと立ち込める黒い煙がその存在を誇示している。
黄泉からの怪物達は人の負の感情を具現化したものなのだと誰かがそう言っていた。
不安定になったこちらとあちらの世界の境界が更に向こう側の無念や憎悪の念を増幅してその出現率は止まることを知らない。
既に呼ばれた回数も、馬で駆けた場所も両の手の指では足らなくなっていた。
それほどに民草の不安とこれまでの争いで大地が吸い上げた紅の液体の量は記憶と歴史の量だけでも膨大だ。
「どうした、パーシヴァル卿とあろう方が怖気づいたか?」
冷ややかさすら覚える声が背後から掛けられた。
振り返れば同じく鋼鉄で作られた仮面を目深に被った騎士が僅かに口元を歪ませて立っていた。
自分が持つ細身のレイピアとは違い、大降りの大剣とも言えそうな程の片刃の剣を逆手で軽々と持ち上げている。
その細い肢体のどこにそんな力があるのだろうかと毎回会う度に疑問に思うものだ。
円卓の騎士の中でも最強と謳われるその剣舞の腕前は誰もが認める程。
以前御前試合を拝見させて貰ったときはその鮮やかさに誰もが見惚れた。
それほどにこの目の前の男の勇姿は国全土に広まり知らないものなど誰一人いないという有様なのだ。
しかし、その男の冷たい仮面の内側に隠れているものを知る者は殆ど居ない。
「誰が怖気づいただと?そういう貴公こそこんな辺境までなんの用だ?此処は私の管轄の筈だが」
「近くまで来たので寄らせて貰った。苦戦はしていないようだな」
「そろそろ現れる刻限なのでな。暫くすれば此処は戦場だ。貴公も混じらぬか?」
「…フン、いいだろう」
仮面に隠れた紅玉の瞳が、キラリと燃え盛らんばかりの炎を灯した。
冷静でいて好戦的なこの男が、闘いの喇叭の音が高らかに鳴るその瞬間を待ちわびている。
血に酔っているのは私も、彼も同じだ。
ぞわりと周囲の暗闇が溶けて広がっていく。
グプグプと怖気の立ちそうなほどの気味の悪い音を立ててこの世のものだとは想像もつかないようなグロデスクな異形の生き物をモチーフにした生命が生み出されては咆哮を上げている。
彼の、自分の鋼が冷えた光を生み出した。心に灼熱が灯る。独特の高揚感。
彼と同じ笑みを浮かべているのだろう。私も。
冷えている筈の甲冑が触れ合った瞬間。焼き尽くされそうなほどの熱だけが走った。
弾かれる。
また、回転してぶつかる身体を弾かれた。
「Dammit! どうなってやがる…っ!」
奇跡の石の力を以てしても歯が立たないとは。
黄金に光らせる身体に冷や汗を流し、青は後ずさる。
「無駄だよ」
ぞわり、と背筋を這うような、低い声。
「無駄だとも」
突き刺さってきた光を寸前で避け、地面に膝をつく。
「キミだけの力でどうにかなるほど、今のボクは弱くない」
「っ…どこの空間から這い出てきやがった!お前は火種から消した筈だ!」
「甘いよ。人間どもの愚かな罪は、いつまで経っても消えやしない」
癒えない怨念は、誰かにぶつけるしかないのさ。
くつくつ、くつくつ。闇の狂気に満ちた静かな嘲笑は、青をその場に縫い付けた。
「この時間軸からボクを消したいのなら」
大人しく協力していればいい。
何かの力によって身動きが取れない青に、人形のような笑みを覗かせた。
耳を塞ぎたくなるようないやらしい水音が響く。
ぺたりと伏せた耳に、それは確実に届いていた。
「っ、ひ、ゃうっ、…っあ!」
身体の側面を地面に押し付けられている。
自由な足の膝裏をしっかりと掴まれ、大きく広げられた中心を我が物顔で出入りする熱は、青の意識も思考も奪い去っていた。
「キミらしくもない、もっと抵抗してご覧よ?つまらないだろう?」
「ぐ、ぁあっ、ひぁ…っ、」
「その瞳を力強く魅せてご覧」
彼にそっくりの、その綺麗な瞳を。
更に奥深く貫けば、そのルビーは真珠に歪む。
石は転がり落ち、輝いてはいるものの青はその力を受けていない筈なのに、身体は黄金色に染まっていた。
「やはり、こうでなくてはね…」
圧倒的な力すら抑え込む征服感。
闇が石から無理やり力を引きずり出しては青に擦り付けていた。
その上での行為。なんと魅力的なのだろうか、と闇は歓喜に震えた。
「や、やぁっ、ぁめ、らめ…っ!ふ、ひゃううぅ…!」
びくり、と達する身体は擦り付けられる力を制御しきれずに暴走するエネルギーを持て余し、全ての感覚が研ぎ澄まされている。
掻き立てられる肉欲に、獣の本能は抗えなかった。
「キミが用済みになったら、ボクはここから消えよう」
何時まで壊れずにいられるか見ものだね?
闇の瞳が支配という名の快楽に細まった。
「どうりで冷えるわけだ」
窓の外でちらつき始めた白さに彼が呟く。来客として訪れていた自分も彼に倣って窓を振り返った。今年になって初めて見る雪に心が弾む。自宅に帰る道のりさえ楽しみだ。
「積もるといいなぁ」
「冬は走りにくいのが問題だ」
憮然とした態度を取ってみせるも、それが単なる作り物であることは知っていた。椅子から立ち上がり窓際へと近寄る。外の冷気がガラス越しにでも伝わってき た。僅かな曇りを指で擦ると、既に大地は白いヴェールを纏い出している。明日まで待つまでもなく新雪を歩けるかもしれない。
室内の暖気を逃がさないようにカーテンを引こうかと思ったところで、窓枠に小さな植木鉢が一つ置かれていることに気がついた。中には土しか詰まっていない。首を傾げつつ持ち上げて彼に尋ねる。
「これ、何だ?」
「夏の名残。今は冬眠中」
彼が椅子に座ったまま、マグカップ片手に返答する。冬眠というからには何かの種を植えているのだろう。冬には彩る草木は雪へと覆われてしまう。花が好きだと言う彼のことだからこの季節は退屈かも知れないと思ったのだが、尋ねてみると意外にも首を振った。
「冬は眠りの季節だからな」
「?」
「この寒さが春の芽吹きを守ってる」
冬に守られ耐え忍んでこそ、輝くような春の芽吹きは訪れる。何人たりとも春の眠りを妨げることは許されない。だから冬は荘厳で静謐なんだぜと彼が笑った。
「ま、冬に咲く花もあるんだけどな」
「それで何を植えたんだ?」
「楽しみは先にとっておくものだぜ」
不満げな視線を送ると、そ知らぬ顔でコーヒーを啜る。どうやら教える気はなさそうだと判断して植木鉢を置いた。再び椅子へと腰掛けると、入れ替わるように彼が立ち上がる。何かを思い出したらしく、暫く待っていろと言い残して隣の部屋へと消えた。
一人二杯目のコーヒーを飲んでいると、白い封筒を携えて戻って来る。
「やるよ」
差し出されたので手を伸ばして受け取る。手触りから中身が手紙でないことだけは分かった。封はされていなかったので開いて中を覗いてみる。小指の先程の黒い塊がいくつか見えた。
「種?」
「秘密のお裾分け。春までちゃんと待てよ」
封筒を指差して彼が忠告する。雪が溶ける頃には謎も解けるということらしい。きちんと鉢に植えてやれば春には正答が芽を出すだろう。
花が咲いたら見せに来るよと告げ、そっと封をする。
ちゃんと咲かせられるか楽しみだぜと、彼が皮肉な口調で微笑んだ。
2008.12.14
ちょこっとグロ。
苦手なひとはちゅうい。