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「    」


懐かしい背中に呼びかける。だけど彼は気づかない。
時に前を歩くことで導き、時に後ろから見守っていた彼が、
自分の声も届かないほど離れてしまったことを理解する。
呼びかけても、前に立っても、彼の目には映らない。ただ通り過ぎてしまうだけ。
それをいいことに、嘗ての自分の英雄にしがみついた。

見えない、聞こえない、触れない、届かない。
それでも伝えたかったことがある。



いつもいつも心配かけてごめんなさい。
何も言わない優しさに甘えてごめんなさい。
あなたに出会えて幸せだったと、
声を張り上げて叫べばよかった。



視線を感じて顔を上げる。白い針鼠が此方を見ていた。
今では不確かな存在となった自分の告白など誰にも聞こえないと思っていたのに、どうやら相手には見えているらしい。恐らく涙も見られただろう。
その視線が誰にも言わないと告げていた。

微笑んでもう一度だけ英雄を抱く。
腕の感触すらないのに、何故か優しい香を嗅いだ気がした。





2008.8.21
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