忍者ブログ
新しいカテゴリーに名前を登録後、自分の作品投稿の際にカテゴリーをつけてください。 題名には、キャラとお題も入れてください。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 「旅のお方ですか?」

湖の畔で釣り糸を垂らす人影に、マリーナは声をかける。身を潜めると言った手前、声をかけるべきではなかったのだが、その見るからに気の抜けた表情に警戒を抱くことも出来なかった。紫色の毛並を持った猫は、ゆっくりとした動作でこちらを向く。

「そ~だよぉ~」

のんびりとした口調。平和をそのまま体現したような猫は、釣り糸に視線を戻す。傍らでじっとしていた小さな生き物が、半分だけ目を開けて彼女を眺め、それから再び閉じた。

この無害としか言えない存在が、その実、非常に異質だった。人々は黄泉の闇から溢れる軍勢に怯え、震えながら生きている。こんな辺境の湖に武器も持たずにいることなど、出来はしないのだ。

「どうしてこんなところにいらっしゃるのですか? 旅のお方」
「ボクはね~カエルくんと釣りをしてるんだ~」
「こんな何もない、危険なところで?」

マリーナの声色が、僅かに固くなる。今の王国に安全な場所など、何処にもないと言うのに。

「そんなことはないよ~この水はキレーだし、空気もオイしいよぉ~」
「それを何もないと、」
「あとねぇ~」

巨体が揺れる。無意識の内に、杖を持つ手を強く握りしめていた。平和的で異質な猫はマリーナの警戒など気付いた風もなく、何かを差し出した。

「お花もキレーだよねぇ」

マリーナはそれを、受け取ることが出来なかった。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
メールアドレス
URL
コメント
パスワード
<< 邂逅  [206]  [205]  [204]  [203]  [202]  [201]  [200]  [199]  [198]  [196]  [195HOME シルバー シャドウ  駆ける >>
最新コメント
[10/15 章屋]
[10/09 恵梨香]
[08/20 なる]
[08/04 ゴチ]
[08/04 ゴチ]
ブログ内検索
フリーエリア
バーコード
忍者ブログ [PR]

Template by テンプレート@忍者ブログ