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飲み比べをしようと家に誘われ二つ返事で承諾した。テーブルの上には色とりどりの酒瓶に加え、グラスや氷がずらりと並ぶ。話には聞いていたものの、予想以上の量に思わず笑ってしまった。
「貰ったのとか、造ったのとか色々余ってるんだ」
「造っても飲めないくせに」
意地悪く言ってやると、造るのが面白いから味見は分かる奴に任せるよと返される。今回も勝負とは名ばかりで、単なる飲みになるだろう。
彼が小さなガラス瓶を取り上げる。透明なガラスの細工はバイオリンを模していた。それが今日のメインらしい。受け取って蓋を取ると豊満な香が鼻孔をくすぐった。くらりとするような甘さは果実酒だろうか。
小さなグラスに注いで、勝負の幕開けを祝う。味も悪くなく飲みやすいが、その分アルコール度数も高い。然程酒に強くない彼ならこれだけで勝負がついてしまうのではないかと思ったが、流石に一杯目で倒れるようなことにはならなかった。
その後は種類を問わずに勝手に好きなものを飲む。実を言えば、自分とてそこまで強いわけではない。精々ザルの一歩手前ぐらいだろうと思っている。酔わないのは限界を自覚しているからだ。度数と胃袋に相談する余裕が有るか無いかで随分違う。
シャドウと飲む時などは相手が枠なので気をつけないと失敗するのだが、そういう意味で今回は安心だった。楽しく飲むにはベストな相手と言える。
「何杯目?」
「同じくらいだと思うぜ。もういいだろ?」
「勝負はついてない」
既に赤くなった顔で言われても苦笑するしかない。涙腺も緩んできたのか涙目になっている。拭ってやろうと立ち上がったところで。


転んだ。


「・・・は?」
「ようやく効いたかぁ。底なしかと思ってびびったよ」
彼がふうっとため息をついて机に突っ伏した。何をしたのだと睨みつけると、にっこり笑って手近な瓶を取り上げる。手の中でくるりと回し、ラベルをこちらへ示してみせた。
「アルコール度数を書き換えただけ」
一番最初にキツイの飲んだから気づかなかっただろと彼が言う。そこまで計算していたのかと相手の計画性に呆れた。
「普通に飲んで俺がアンタに勝てるわけないじゃないか」
「反則だぜ」
「うん」
素直に自分の否を認めた彼が、自分の手をとって立ち上がらせる。完全に踊らされた事実が悔しい。
「・・・お前いつからそんな黒くなった」
恨みがましく呟くと、そりゃあアンタを好きになってからに決まってるじゃないかと彼が笑った。





2008.8.19

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思い切り吹っ飛ばされて受身を取ることすらままならない。
壁に叩きつけられたはずなのに、次の瞬間には棘を捕まれ宙吊りにされる。
彼の双眼が自分のそれを覗き込んできた。視界が霞んでいるのは眼球が潰れかけているのだろうか。それとも先程から止まらない血が目にでも入ったか。
「綺麗だな」
いつもよりオクターブ下がった声で彼が笑う。棘を掴む右手に反比例するように、頬へと添えられた左手は優しかった。慈しむような指先は、血と体温で温かい。瞼をなぞる様に触れる指の感触は分からなかった。
「よこせよ」
彼が言って、次の瞬間ぶちりと音がした。思いのほか痛みは少ない。視細胞はとっくに死んでいたらしい。所詮器に過ぎないんだなぁと人事のように思う。

眼球だって何だって、好きなだけ抉ればいい。
持てる分全部くれてやって構わない。
ただ、死にたくはないと思う。

「腕でも足でもアンタにやるよ。でも殺すな」
「命乞いならみっともないなぁ?」
「違う」
見えなくなった右目が彼の手の中にある。遠近感が狂った世界で、腕を持ち上げ彼へと伸ばした。
如何してこんなことになったのか、もっと早く気づけたら。
そう思うのはエゴだから、代わりに全部持っていけ。



「悲しいんだろ」

独りにして、ごめん。





背中に伸ばして抱きしめた手は、彼の心に届いただろうか。





2008.08.19

同じスーパー化でも体への負荷は違うのかという話をしたことがある。



「ん・・・いや、負荷自体は同じだと思うぜ。あれやるとしんどいし」
「そうは見えないが」
「長丁場は精神的にきついんだ」
彼はそう言って手首をさする。そこには何もついていない。肉体的ではなく、精神的という言葉が少し意外だった。
俺は多分つけない方がいいんだと彼が笑う。何故と問うと、忘れないためにと抽象的な答えが返ってきた。
「戦っている内にさ、何を守りたいとか、悲しいとか痛いとか、全部忘れて壊したくなる」
「・・・それは」
「思考が食われるんだ」


そしたら俺はどこに帰ったらいいんだろうな?


笑って誤魔化そうとする本音に気づいてしまうのは、結局本質が似ているからだ。
誰も彼を止めてはくれない。
その事実が、彼の自制に繋がっている。
腕の飾りの有無は、その具体例に過ぎない。


後先を考えずに全力で戦うのは自分を省みない行動だから、責められることには慣れている。
それが出来るのは自分が帰ることを考えていないからだろう。
だけど彼に帰る場所が無くなれば、そもそも戦う理由も無くなるのだ。


背負うもへの自覚が人を思い止まらせるなら、
何も持たない自分には装飾品の方が相応しい。





2008.8.19
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